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「伊月さん、誰かを悪者にしたって何も解決しないでしょう?みんなそれぞれ思うところがあって、それがすれ違ってしまっただけなのかもしれないのよ」
人数分のティーカップをテーブルに並べながら、佐野が仲裁に入るが、伊月の気持ちは動くことなく、聞く耳を持たなかった。
「親子の縁を切ろうとか、その人を母親だと認めないとかそういうことはもう言わない。だけど、親父に守りたいものがあるように、俺にも守りたいものができたんだ。だから、卒業しても一緒には住まないよ。俺は、大切なものを見過ごして、失ってから気付くような大人にはなりたくない」
部屋に戻ろうと、ソファーから立ち上がった伊月を、父親が見上げた。
「でも、親父が母さんと結婚してくれたおかげで、俺も大切なことや人に出会えたから……感謝してる。いつか、きっと一緒に暮らせるように、しばらくは今のままでいさせてください」
しっかりと頭を下げてから伊月はリビングを出て、長い廊下をしっかりと踏みしめ、螺旋階段を上った。
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