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「どしたの?そんな走って。ってか、髪の毛ぐちゃぐちゃ」  ははっと笑っている伊月は、片手をコートのポケットから出して、乱れたひまりの髪を少しずつ直した。 「ごめん、大丈夫だから、ちょっと待って」 「うん、待つけどさ。なんでそんな慌ててんの?」  いつになく取り乱しているひまりを、伊月は可愛いと思って優しく見つめている。  電車のドアの車窓を鏡にして、乱れた髪を直してマフラーを巻き直すと、もう1度伊月と向き合った。 「伊月くん、1人?」 「うん、今日は1人で帰ってんの。途中まで一緒に帰ろ?」  微笑む伊月に、心臓が射抜かれたような感覚を覚える。  プリントを届けたあの日、ベッドに横たわった伊月と目が合った時に感じたのと似ていて、ひまりは目を見開いた。
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