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バッグを肩に掛けた伊月が気まずそうに立っているその後ろを、電車がスピードを上げて走り去っていく。
「……いま言う?帰れねーじゃん」
驚いているひまりの反応を無視して、1歩ずつ伊月が近づく。
困ったような微笑みを浮かべた彼は折れるように腰を落とすと、ひまりの肩におでこを乗せた。
ふと、耳元にキスの感触がして、ひまりが顔を見合わせれば、いたずらに笑っている伊月と目が合った。
「俺のほうがもっと好き。ずっとずっと、ひまりちゃんを離さないから」
ひまりが頷くと、伊月は両手で彼女の頬を包み、今度はくちびるにキスをした。
2人ぶんの呼吸はくっきりと真っ白に色づき、消えていく。
ふわりふわりと舞い落ちてきた粉雪は羽のようで、愛しさを残しながらあっという間に消えていった。
end
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