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頼み屋。その文字の書かれた板がタオルのたるみに引っ掛かり、鞄からはみ出た。ため息をはいて再びしまった。
「暑いならお召し物を一枚お脱ぎに・・・・・・。あら、依頼ないと思いましたら・・・・・・看板。他の方々は出してますわよ?」
「・・・・・・ああフレア、言ってなかったな」
振り向くと目を見開き、俺を睨み付けていた。俺はゆっくり告げる。
「依頼がないってのは・・・・・・頼み屋はこの町ではしない。明後日の祭りのためだけに来てるんだから」
窓の外をみればまだ太陽は高く上がっている。町外れの宿であるが、昨日よりは人通りが多い気がした。
気づけばフレアもいつの間にか俺のそばに来て、太い尻尾を揺らしていた。額から一筋汗が垂れていく。
「暑い」
椅子に体を預ける。暑さは容赦無く攻め立てて来る。避けることもできず、目をそっと閉じた。
しかし、膝になにか乗る感触に目を開ける。フレアの顔が近づいてきていた。
「そろそろ、お聞かせくださいませ。頼み屋ってなんですの?いままで依頼されたものすべてをやる職と習いましたが」
「学校ってやつで?ま、その通りだ。付け加えるとしたら、一国につき三件まで。ま、隠れてたくさんするやつもいるけど。あとその国の許可が一応いる。自由に移動するもんでな」
首を捻るフレアに、俺はこめかみを指でつついた。
「スパイ、とかな。役所で誓約書を出さないと仕事はできないことになってる。フレア様、お分かりか?」
「様は必要ありませんわ。家から飛び出したんは事実ですけれども」
不快そうな声が拗ねたように聞こえたのは気のせいじゃないだろう。彼と会って3ヶ月、色々と助けてもらっている。
話は打ちきりだ。これ以上は。
俺はフレアの白い首筋を撫でて外を眺めた。もう二・三時間したら、早い夕食に出よう。金は遣り繰りをうまくしたらあと一週間は持つ。
そう決まるとなぜだか頭がぼんやりしてきた。
「あ、まだ聞きたいことがございます」
声が遠くから聞こえる。目蓋が降りていき、俺は心地よい闇へと意識を手放した。
すっかり辺りは暗くなったときに、フレアにたたき起こされた。あくびをこらえながら夜店の通りを歩く。
「お腹がなりそうですの」
どこにも入らない俺にイラついたようだ。首に巻き付き、俺の耳元に囁く。
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