ウソツキマチ

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 ぎょっとして回りを見渡したが、誰も耳にしてないようだ。  不用意な会話は見世物のもと。そもそも、しゃべるキツネなんてこの世にいないはずだから。  チョッキの下のシャツへつけた頼み屋である証のバッチを指先で触れた。品やりとした感触は指を通して胸へ突き立つ。  嫌に騒がしく艶かしい屋台のなかを歩いていると、一ヶ所だけ質の違う騒ぎが起きていた。 「お願いいたします」 「けっ。金にならぬならやらぬ」  周囲のざわめきに引かれ、中心へ自然と足が向く。少年が小さな壺を差し出し、苦り切った男が貧乏ゆすりをしながら断っていた。  よくみれば男の胸元に頼み屋のバッチが誇り高く輝いている。 「貧乏臭い仕事など、金輪際やらぬ」 「でも・・・・・・おじさんで最後です。頼み屋はなんでもす・・・・・・」 「ならもっと金出せや」  急に荒い口調で少年に迫る。壺を奪い取る。少年の口から甲高い悲鳴が上がる。男は壺を地面へ叩きつけていた。そして、拳を固く握り、少年を睨み付ける。  俺の首から暖かい毛が遠退く。男の前へフレアが飛び出ていっていた。 「フレアっ」 「なんだぁ?」  男がフレアを掴む前に抱き上げた。自然、少年をかばう形になる。俺は密かにフレアの背をつねった。  フレアは口角をあげて俺を見上げる。内心舌打ちをしながら、男を見上げた。 「大の大人が・・・・・・」 「退けやがれ」  いきなり魔術を仕掛けられる。青い光珠は一直線。俺へ向かってきた。 「アース・バリア」  真緑のカーテンは光珠を溶け込ませた。俺は魔法を発したやつをみる。 「あんたはキツネだろうが?いまやると・・・・・・」 「あなたの発した魔術にしか見えませぬ。さ、頭冷しなされ、おじさま」  男の頭上から氷水の入った盥が出現する。傾き、一気に男の体へかかった。体が跳ね上がる。一気に目が覚めた顔をして、男はへたりこんだ。
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