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二つの属性の魔術を同時に使う人はめずらしい。フレアが魔術を解くと、辺りは吐息ひとつ漏らす人はなく、時が止まっていた。
やがて、人々は興奮したように拍手を鳴らし、さらに騒ぎが広がり、俺の体は熱くなる。
騒ぎの中心から逃れられそうにないのを嫌に思いながら、フレアの首をつかみ、地面へ下ろした。
口を開けっぱなして俺を見つめる視線に気づくと、体を屈めて目線を合わせた。
「なあ、俺でよければする。ただし、正式ではないから金は要らない」
「・・・・・・え?お兄ちゃん、頼み屋?」
チョッキを開き、バッチを少年にだけ見せた。少年は勢いよく立つと、壊れた壺とコインを集め始める。
「もう一度いう。金は要らない。この町での依頼は受けないつもりだったから」
俺は少年の細い腕を掴んで言った。少年は瞬きをして俺を見つめる。
少年は遠慮がちに頷くと、一枚の地図を取り出した。
「パパを助けて」
少年が指差した先に町の名前もなにも書かれておらず、眉根を寄せる。フレアも俺の下から顔を出して地図を眺める。
「なぜ?」
慎重に言葉を選び、続きを促した。少年は少しためらった後に、うつむいて口を開く。
「町があるって、パパが出ていった。土産を持って帰るって。でも、一ヶ月たっても帰んない。明後日の祭り、一緒に露天回りをしようって約束したのにっ!」
最初は小声で話していた少年は、気が高ぶったのか拳を地面に叩きつける。俺は頭をなで、頷いた。
「父御を連れて帰ればいいんだな?約束しよう・・・・・・夜遅い。な、家まで送るから。・・・・・・あ?対価?金は要らねぇってば。どうしてもってなら、飯のうまい店だけ教えろ」
少年は透明のビーズ玉のような瞳で俺を見つめ、こくりと頑是無く頷いた。
立ち上がると、小さな手のひらは俺の手を握りしめ、引っ張る。俺はフレアを反対の腕で抱えて、少年の導くまま、ついていった。
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