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女性はフレアへ焼けた肉の欠片を集めたものを持ってきた。そして俺たちに頭を下げる。
「なにもなくてすいません」
「あ、いや、十分です」
「お母さんの料理美味しいでしょ?」
無邪気な少年の声に救われた。気まずい気持ちを押し込んで、頬に笑みを無理矢理浮かべる。
(アナニアって場所がやつらの居場所だとして・・・・・・この仕事を考えたら、笑うこともできないのだが)
せっかくの料理の味もわからないまま喉を通りすぎていく。正直受けたい仕事ではない。
フレアの言葉が頭に引っ掛かっていた。また、あの場をしのぐには少年の依頼を受けるしかないように思えた。
頭を抱えたい衝動に駆られながらも、スープを空腹にうごめく胃へ運んでいく。
女性へ礼を言い、少年から地図を受けとり、宿へ戻る。昼間の暑さと一転して、真夜中になると先程までの暑さが嘘のように消える。代わりに甘露のように冷たく甘い空気が漂っていた。
空気を胸いっぱいに吸うと頭が冷め、同時に後悔の念が湧いてきた。
「許可ないとできないのではなかったのではないのでございませんか?」
「金はとってないし。だが、バレたら、役所から厳重注意だけじゃねぇ罰を与えられそ。明日は朝早く出るぞ」
「まぁ、早起きは苦手ですのに」
フレアはあくびを漏らし肩へ顔を埋める。文句だけをいって・・・・・・俺は顔をしかめながら、フレアの体を撫でる。
明日はどう行こうか。"地図にない町"へ。
フレアは地図の町が見えていただろうか。だといいけれど。
宿につくとフレアを布団に寝かせる。寝息の優しい音を聴きながら、荷物をまとめる。
白シャツを脱ぐ。鏡に写った自分の体に顔を歪めた。上半身いっぱいに広がる蔦模様と首にかけたネックレス。
ネックレスの糸に通された小さな玉には一つずつ文字が刻まれていた。
(厄介な呪い)
旅のなかで玉を得る度に蔦模様は消えていってはいるが、まだまだ解ききれない。奴等の仲間はたくさんいるんだから。
乾かしていた茶色いシャツの袖に腕を通す。
もし、アナニアという町が奴等の・・・・・・頭を振って、考えを捨てた。奴等のことは考えないことにしたはずだから。解呪なんてとうの昔に諦めたから。
「暑さにやられたんだ」
椅子に腰を掛け、目をつむる。少女の後ろ姿が脳裏を駆け抜けていった。
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