つくばへの招待状 

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   ウイスキーコーク  篠田希唯は、自宅の玄関前で一通の手紙を握りしめながら、呆然と立ち尽くしていた。 『同窓会のお知らせ』  同僚との飲み帰り、自宅のドアに体当たりするくらいには酒が回っていたのに、ポストに入っていたその招待状を見て、一気に酔いが覚めた。  同窓会。かつて共に野山を駆け回った少年少女が、大人になって再び時間を共有し、互いの成長を確かめ合う会。  これを訳すと、 『恋、金、クルマ。これら三つがどれだけ充実しているかを自慢し合い、優劣を付ける会』となる。  男は金とクルマに夢中になるが、女はとにかく自分の恋だの他人の愛だのと騒ぎ立てる。これが、希唯には苦痛以外のなにものでもなかった。  希唯は、来月で二十五歳になる。山と畑しか無い茨城の田舎から上京して七年、初任給の高さで選んだ人事派遣会社に就職して、一人か二人の彼氏と別れて買い物に給料を費やしてただ何となく東京という無機質な街に溶け込むように生きて来た。世間では潤いの無い女の事を干物女だの喪女だの呼ぶらしいが、二十五歳にして希唯はそれら乾いた女のスタートラインに立った事を実感していた。 「やばい。私、仕事しかしてない」  女がこれに気づいた時、殆どの場合が手遅れである。と、会社の先輩が言ってた。  女は仕事に夢中になってはいけない。とにかく男を追いかけろ。恋に憧れろ。金持ちを掴まえて、安定と安心を得たら次は優しい男を掴まえろ。大丈夫これは二股ではない。女の股は一つしかない。  と、我が社のエース、班長の渋谷優子は声を大にして言う。酒の席でも、仕事中でも。      
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