つくばへの招待状 

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 自分から告白をした事のない希唯にとっては、彼氏を選ぶなんて真似出来るはずもない。コンプレックスがあるわけじゃないけれど、狙い撃ちするほど恋愛に興味があるわけでもないのだ。  そんな希唯が、同窓会でかつての友人たちに恋愛話をする? そんなの、出来るわけがない。五年前、成人式の時は運良く彼氏がいたのでその時は何とか切り抜ける事が出来た。「希唯はどうなのよ?」と聞かれたら、彼氏と出会った時の話とセックスの時の面白エピソードを話せば大体は満足してもらえる。ちなみに希唯が話したのはバックの時に彼が間違えてアレを希唯の尻の穴に挿入してそのまま二、三度動かしてしまったという痛い話だった。下品な田舎娘たちにはそれがたいそう受けたので良しとしたが、「恋バナ」をした気には全然なれなかった。  だが、田舎の友人たちに恋愛話をする時に厄介なのは、話すネタが無い時だ。  この場合は、アナルバージンを奪われるよりも痛い目を見る事になる。 「えー出会いないの?」 「セフレは?」 「ってうかうちのクラスの男は?」  これらの下らない質問から入り、やがて同級生たちによる「それじゃダメだよ」と何をそんなに経験したのかと聞きたくなる程に上から目線のお説教が始まるのだ。成人式の時は、希唯以外の「おひとりさま」の内、何人かの子がその心ないお説教のせいでちょっと泣いてた 「でも、今じゃみんな結婚して子供いるんだもんなぁ……」  希唯は招待状をベッドに投げ捨てて、その上に顔からダイブする。  田舎の人は結婚が早い。  これは都市伝説なんかじゃなく、紛れもない現実なのだ。  あの時、お節介な同級生たちから質問責めにあっていた「おひとりさま」たちも、風の噂とフェイスブックによるとみんな名字が変わってる。おそろく、恋人もセフレも酔った勢いでやっちゃった相手も口説いてくる上司もいないのは、うちのクラスでは希唯だけだ。  正直、行きたくなかった。  でも、行かなきゃ。  そう思ってしまうのが、希唯の悪いところだ。 「行かなかったらどんな噂されるか分からない」  希唯は、あまり他人と関わらないくせに他人の目は必要以上に気にしてしまうきらいがある。  仕事は仕事として割り切れるが、人間関係となるとどうしても「自分がどう思われるか」を気にしてしまって、ろくに話す事もできない。  彼氏なんて、出来るはずがないわけだ。
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