天に虹彩現る日は……

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ずぶ濡れのその姿は鬼気迫るものがあり、私は彼の前で身を縮ませた。 「……わ、私、ちゃんとお暇をもらいますからと側近の方々に、い、言いましたけど……」 「何が暇だ、ヒマがあったら雨を止ませろ!」 そんなこと、 わかってます…… わかっていても、私の口からは本音がこぼれた。 「王宮へは戻りたくありません」 「それは困る。 お前のために用意したものがたくさんあるのに、無駄になるじゃないか」 「私の? …使っていた部屋の備品は処分してくださっても……」 「何言ってるんだ、阿呆が。 いいか睡蓮、俺はお前のために……いや、俺のためでもあるが……。 黙っていたが用意したものがあるんだ。 だからこんな場所に籠らないで一緒に帰ってくれ……いや、そうではなくてだな…」 ……? なんだろう この顔は…… 照れているような…? いつもと様子が変な彼に、私は戸惑った。 「睡蓮、俺の愛おしい巫女よ」 彼は突然、私の手を取ると、目の前に跪き、そして言った。 「俺のそばにいてほしい。 ……俺の隣に、いつも。 そのための椅子を用意したんだ。 俺の妃として……君の居場所を。もう決めたことだからな……」 「…っ!? …だって、お妃様は何処かの国の……」 「そんな結婚はもう懲りたと言ったろ。 俺の妻は俺にとってもこの国にとっても、なくてはならない大切な……お前がいいんだ、睡蓮。だからもう泣かないでくれ」 「……殿下、……私……」 嬉しいのに涙がでるなんて、 不思議だった。 言いたいこと、訊きたいことは山ほどあるけれど。 溢れて止まらないこの涙に、今は酔いたい……。 「泣き笑いだな。 笑えば晴れ、泣けば雨が降り、 泣き笑いだと空がどうなると思う?」 「……さあ、知りません。 お母様は教えてくれませんでした」 私の返事に、彼はくすりと笑いながら 部屋の窓布を全て開け、そして言った。 「空を見てごらん睡蓮」 外は雨が止んでいた。 そしてそこには…… 「巫女姫が幸せである証を天の龍神に見せてやることができてよかった。さあ、城へ帰るぞ」 「……はい」 ……そこには、 地上から天へ、 まるで橋がかけられたように、 七色の美しい光の帯が…… 晴れ渡った雨上がりの空を彩っていた。 〈終〉
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