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うぅっ、胸が……締め付けられる。苦しい。
誰か、誰か助けてくれ。
くそっ、こんなときになぜだ。
今日はさとみの誕生日だっていうのに。
もしかして死ぬのか。ダメだ、ダメだ、ダメだ。
死にたくない。
テーブルの上にスマホが見えた。そうだ、救急車を呼べば助かるかも。
どうにも足に力がはいらない。くそっ何がどうなっちまったんだ。
とにかくあそこまで行かなくちゃ。腹這いになって肘をつき右左と動かして這いつくばって進む。いわゆる匍匐(ほふく)前進で進む。
ものすごく胸がムカムカして吐き気がしてきた。額から流れる汗で目が沁みる。
うぅっ、胃液が逆流してきて口の中が酸っぱくなってきやがった。最悪だ。
顔をしかめてスマホを睨む。手を伸ばせばスマホが飛んでくるなんてことは起きるはずもない。ほんの数メートルの距離がやけに遠くに感じる。
右側にある鏡が光りを反射して思わず目を向けた。そこには青白い顔の自分の姿が映り込んでいた。
鏡なんか見るんじゃなかった。余計に具合が悪くなった気がした。
とにかくスマホだ。早く救急車を呼ばなくては確実に死が待っている。
あと少し。そうだ、手を伸ばせスマホはすぐそこに。
そのとき、スッと何かが右から左へ通り過ぎていった。目の錯覚だったのだろうか。
そうかもしれない。
ダメだ、どんどん息苦しくなってくる。無駄な足掻きなのだろうか。
死は免れないのだろうか。
そう思うと心臓の鼓動が早まりますます息苦しさが増していく。このまま心臓が停止してしまうのではないだろうか。
もう望みはないのか。いやそんなはずはない。あきらめるな。
優也は両腕に力を込めてスマホまでの距離を詰める。身体中が何かに蝕まれていくようで思ったよりも力が出ていない気がするが負けてなるものか。
生きたい、生きたい、生きたい。
さとみにまた逢う。絶対に逢う。
その気力だけでテーブルを叩き付けるようにしてスマホに手を伸ばした。よし、第一段階クリアだ。
スマホを手にしただけで少しホッとしてしまった自分がいた。
うぅ、ううう。まずい、今のがゴールじゃないぞ。
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