命の勘定

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 一人になってしまった。  だだっ広い借家は、一人身の男にとっては持て余すことこの上ない。僕は虚しい気持ちを誤魔化すようにバスルームへと向かった。  汚れた衣類を洗濯カゴに突っ込むと、熱めのシャワーを浴びる。しとどに流れ落ちるのは、熱湯ばかりではなくて。そこでもう一度、一人になってしまったことを再認識した。人間はつくづく孤独に弱い生き物なんだな、と思う。  気持ちは、間違っても晴れやかとは言い難かったけれど、それでも身体だけはきれいになった。僕は、大きめの部屋着に着替えると改めて家の中を一周してみた。  寝室にはダブルベット。女性ものの下着もある。キッチンにある食器類は対になっているものばかりだ。きっちり整頓されている。  リビングルーム。選び抜かれた上質な家具。とりわけ僕のお気に入りはふかふかのソファだ。でも、この部屋ももうずいぶんと汚れてしまったな。僕は苦笑した。
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