命の勘定

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 ああ、僕はこの家の中で一人きりなんだ。とたんにまた、そんな思考が駆け巡った。梅雨だからこんな湿っぽいことばかりが浮かんでしまうんだろうか。窓の外の淀んだ曇り空を眺めてそんなことも考えたが、すぐに無関係なことに気付いた。  コーヒーメーカーで淹れ慣れないコーヒーを一杯作る。今の僕にはこれがお似合いだ。元来、甘党である僕は、敢えてブラックコーヒーをすする。やはりそれは苦かった。  ふう、とため息を一つ。今度は自嘲気味に笑った。非常に乾いた笑い声が反響した。終わらせてしまえば、心の渇きが潤うと思っていた。  でも、今まさにそうであるように、現実は違う。心の中にぽっかりと空いた溝は、結局、埋まることはないのだ。  そんな僕を人は身勝手だと非難するんだろうか。するんだろうな。そうに違いない。それでも、また人の温もりを感じたい。僕はそんな風に考えるようになっていた。
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