靄。

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それは煩わしげであったが、年長者特有のある種の優越感のような物も僅かに覗かせていた。 それがほんの少しだけ癪に触ったので、僕は続けて訊く。 「若造が若造がって、貴方だって若かった頃があるでしょうに、そうやって括るのは良くないですよ」 「良くないからって、やっちゃいけねぇ訳じゃあねぇだろ。それにな、若いってのは何も、歳を取ってねえってことじゃあねぇのさ」 そう言うと、彼はおもむろに汚れたコートの端を捲り上げる。 「……それは」 彼の胸には、ぽっかりと、五〇〇ミリリットルのペットボトルが入りそうなくらいの大きさの穴が空いていた。 良く見てみれば、裾を摘まむ腕も何ヵ所か丸く欠けていて、指も何本かが途切れてしまっている。 「若いってのはな、経験を積んだか積んでねえかって、ことなんだよ」
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