靄。

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「経験?」 「そうだ、経験だ」 「そんなのはほんの誤差に過ぎないでしょう。人生はそんなものじゃあ決まらない」 「馬ァ鹿。そういうこたぁ、もっと歳を取ってから言うもんだ」 「矛盾してませんか」 「してねえよ」 欠けた指を離して、コートの内側へ。 掴んで取り出したのは、泥のついた酒瓶。 それの蓋を噛んで開けると、ぐっとあおって、息を吐く。 「俺くらい老いると、もっともこりゃあさっきの経験の話と単純に老けたってのと両方だがよ、わかっちまうのさ」 「アルコールの味が?」 「そんなもんは半世紀も前に知ってたさ。そうじゃなくて、お前が今悩んでることの答えだよ」 「そんな簡単にわかったら苦労しませんよ。なんせ僕にとっては、これ以上無いくらいに大切な命題なんです」
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