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「抜かせ。お前程度の悩みが、そんなに大切なもんかよ」
「だから、僕にとってはって、言ったじゃないですか」
「お前はな」
彼の前髪が、僅かに揺れた。
そして額に覗く穴が露になる。
さながら三つ目の眼球であるかのようなそれは、まっすぐに僕を貫いてくるのだった。
「この世の中にとって、取るに足らねぇ存在だ。お前が死んだって代わりは幾らでもいる。お前が本質的な所で負っている責任なんて一つもねぇ。お前の悩みは、かつて俺たち老いぼれが一度は通ってきた道で、お前は俺たちの轍を辿っているだけだ。お前は――――」
「やめて下さい」
知っている。
そんなことは知っているのだ。
だからこそわからないんじゃないか。
「大して必要でもない僕らが、どうして生きている必要が、あるのかが」
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