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「それは、貴方がまだ死にたくないと思ってるからよ」
僕は暫く、ぼうっと外を眺めていた。
この廃バスが、どこに向かうのかが気になったからだ。
けれど、どこまで行っても水平線をなぞるばかり。
もしかすると、と僕は視線を戻す。
やはりというか、そこには一人の女性が居た。
透き通った硝子で出来た、髪の長い、優しそうな目をした人だ。
歳はわからない。十代の若者にも、妙齢の夫人にも見える。
その滑らかな透明の持つ包容力に惹かれるようにして、僕は訊いた。
「どうして僕は死んでないのですか」と。
彼女は気楽そうに、砕けた言葉遣いで答えて、こう続けた。
「実は自分でもわかってるんじゃない?死にたくなんかない。どうにか現状を打開したいと思ってる」
「それは違いますね。僕はもう諦めがついていますよ。とっくの昔に、抗うのは止めちまってます」
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