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「……ねぇ、どうしてあなたは、ここに来たの?」
柔らかな西日が、車内をほんのりと照らし出した。
所々錆が浮いて、虫の這った跡が見える座席に腰かけているのは、僕と君だけだった。
二人の間には声が漂っていて、
また、それだけで十分に満たされていた。
「ずっと、死にたかったんだ」
僕の声はまるで、死人のようだった。
けれど、死人に口はないのだから、やっぱり僕は生きているのだろう。
「ずっとずっと、死にたかった。生きているのが辛かった。ひたすらに苦痛だった。それから逃れようとするのが、たまらなく苦しかった」
君は、「そっか」とだけ呟いた。
きっとどうでもよかったのだろうし、
僕もそうであることを望んでいた。
朽ちた路面電車は、ただ黙して、そんな僕らを包み込んでいる。
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