霧。

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きっと僕は、生まれる場所を間違えたのだ。 ここは僕にとって、海の底に等しい。 必死に息を継ぎながら、漂い、流されるだけの存在だ。 「私だって死にたいよ」 彼女は空を見ながら、そう呟いた。 夕陽はいつまで経っても沈まない。まるで、何かに執着しているかのようだ。 「じゃあ死ねばいいだろ」 「死ねないよ。私は人間だから」 「僕だって人間だよ」 「じゃあ死ねないんだろうね」 そして彼女は、座席に空いた穴から綿を引き抜いた。 年期の入った繊維が、汚ならしく宙に舞う。 「ねぇ、あなたも歌おうよ。きっとそうすれば、見つかるよ」 「何が見つかるんだ?」 「生きる意味とか」 「下らない」 僕はいっそのこと、床にでも寝転んでやろうかと思ったが、止めた。 そのまま自分が水のように染み込んでしまいそうな気がしたからだ。
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