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1LDKのキッチンに立ち、夕飯を作ることにした。
大学入学とともに始めた一人暮らしで、料理の腕はかなり上達した。アヤフミと付き合っていた頃は、よく失敗して笑われていたがー
「…ーっもう!」
久しぶりに名前を目にすると、やはり考えてしまう。
その事実を認め、もう一度スマホを手にした。
SNSは削除したが、なんとなくそのままにしていた電話帳。真野アヤフミの名前を見て、何度もその名前を確かめ、メールアドレスをタップした。
『久しぶり。彼女のこと、聞いた。ホントのことなんだよね?
何かできることあったら、言って。今、ウチらの学科のグループも、連絡回ってるから、そっちに情報来たら、回そうかと思うけど。』
何度も送信ボタンを押すか迷いながら、ギュッと目を閉じ、思いきって、送ったー。
すぐだった。
SNSの通知とは異なる、メールの新着を知らせる音が鳴った。
差出人は、アヤフミだった。
『電話していい?』
それだけの文字列。
居ても立ってもいられず、震える手で、アヤフミの番号へ電話をかける。
ほぼ、オンコールで懐かしい声が聞こえた。
「リカ…?ーー俺…」
「アヤーー」
「ゴメン。こんな、なんか…。もう、どうしていいか……っ」
電話越しの呻き声。ハリがなく、憔悴しきった声色だった。
もう、いい。
素直に、そう、思えた。
「ね、彼女戻ってきたらさ、アヤが…そんな風だと、逆に心配されるよ!」
励ます言葉も形骸化していたが、アヤフミは、少し笑って、あぁと頷いたようだった。
「俺さ、リカにずっと…言いたかったこともあったんだよ」
「ん…何よ、今さら。ゴメンとか、聞かないからね」
アヤフミは、少し笑って続けた。
「や、そーじゃないけど。変わんねーな、気の強いトコ」
余計なお世話、と、ツンと言い返すと、しばらく黙りこくった電話口から、コホンと小さな咳払いが聞こえた。
「ありがとな。リカがいたから、俺、勝手なこと安心してできてた。今は、ちゃんとアカリ…彼女を大事にしようって思えて。それも、リカのおかげなんだ…」
そこまで一息に言って、そのまままた黙る。
リカも、何も言えずに、しばらく黙っていた。
「…今度の連休で、あいつの家行く予定でさ。……なんで…」
最後は、リカに言った言葉ではなかった。分かって、そのまま聞くーー
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