リカ

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アヤフミは、一人暮らしだ。転居したという話は聞いていない。 財布と鍵と定期入れをカバンに突っ込み、後は携帯電話を握りしめた以外には、ほとんど着の身着のまま家を出て、電車に飛び乗っていた。 三駅ほどの距離がとても長く感じるーー 何度もメールを入れたが、全く返信はない。 たまりかね、車中にも関わらず電話をかけるが、コール音だけが鳴り続けたかと思ったら、何コール目かには、ツーツーツーという通話の終了音しか聞こえず、その後は呼び出し音にもならなかった。 サラリーマン風の中年男性には、咳払いされ、ジロリと睨まれた。 ただ、不安だけが、募るーーー。 駅を降りてから、どう歩いたか曖昧なまま、見覚えのあるアパートに辿り着いた。 すれ違う女性にぶつかりそうになりつつも、まっすぐにアヤフミの部屋へと向かう。 『真野』 表札を見て、インターホンを鳴らす。 反応は、ない。 はやる鼓動に胸を押さえつつ、片手でドアをノックした。 やはり反応はなかった。 今度は、少し強く、 さらに強く、 何度も何度もドアを叩き、とうとう声が出ていた。 「アヤ!アヤフミ!?」 それでもドアはピクリとも動かず、部屋の中からの音も聞こえない。 そっと、ドアノブに手を伸ばす。 意を決し、丸いノブを掴むと時計回りに回そうとした。 ーーカチャ 小さな音を立て、ドアが開いた。 「……ア、ヤ…?」 薄暗い室内に声をかける。 中からの生温い空気が頬を撫でる。 室内は、無人だったーーー。
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