第1章

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 志摩は焼きそばを作りながら、親に指示まで受けていた。  花火が始まると、店番は志摩の姉が代わってくれた。志摩が、特等席ですと用意したのは、軽トラックの荷台であった。荷台から更に上に登り、運転席の上で、志摩が弁当を広げた。 「倉田さんも、食べていないでしょう」  海にかけて人で埋まっていた。荷台には、荷物も残っているので、見張りも兼ねているのかもしれない。 「おいしいな」  何よりも空腹であった。  花火が上がると、歓声が聞こえた。やや高台のせいか、花火が近い。 「他の港でも、合わせて花火を上げるのですよ」  遠くからも、音が響き、遠くの小さな花火が見えた。  止まることなく、あちこちから花火があがる。陸での花火とは、やや趣が異なっていた。花火の前に、何も無い黒い海があるのだ。 「イカも美味いな」  手造りという味がしている。 「親が、バイト料と、今度、船を使っていいから、倉田さんに、周辺を案内して来いと言っています」 「バイト料は受け取れないよ」  さんざん御馳走になっている。 「大丈夫、少ないですから」  志摩曰く、俺が外国人の相手をしたので、凄く助かったのだそうだ。外国人といっても、片言は日本語が話せた。 「俺も、やっぱり嫉妬深いので、倉田さんが他の人と付き合うのは反対してしまいます」  男性同士の場合は、決まった相手を持たないという場合も多いらしいが、志摩も元々は女性としか付き合っていない。恋人のルールも、一対一がいいという。 「でも、俺…」  彼女が居ると言おうとしたが、連絡もしていないので、振られているかもしれない。 「山の上の奴のことなら、待ちます」  バイトの雇い主ならば、無下にはできないだろうから、待つと志摩は言う。 「それに、倉田さん、どんどん綺麗で、しかも、かっこよくなっていますから…いい恋なのでしょう」  花火が終わると、港に帰る人で溢れかえる。志摩が操縦、俺が客の案内で、何往復もしてしまった。  深夜になり、志摩が家まで送ってくれたが、その途中、誰も居ない公園の駐車場で、やはりキスされてしまった。服の上から触れる、志摩の手が力強く、熱かった。 「…志摩」  志摩は、いい奴だった。その思いに応えたいと思うが、心の整理がついていなかった。 「分かっています。ちゃんと、家まで送ります」  志摩は、とても優しかった。
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