第1章

11/41
前へ
/41ページ
次へ
「ええと、俺は何と呼んだらいいですか?」 「俺は、海里 諒一(うみさと りょういち)諒一でいい。ここに居る者は、皆、海里だから」  皆、親戚のようなものなのだそうだ。そして、この地に居るのは夏の間だけだった。 「ここ、散歩してもいいですか?」 「構わないよ」  諒一は、俺の手を引き、村?を案内してくれた。隣の家はアヤ、三人の兄弟と住んでいた。  広場の向こうには、三軒ある。その中で、一番大きな家に、耀(あかる)という少年が住んでいた。  耀は俺より三歳年下で、勢力的には、この三人がここを仕切っているのだそうだ。耀は、物を運んで貰う許可が取れず、かなり機嫌が悪いらしい。 「耀には、かかわらなくていい…」  耀は、二人の妹と住んでいた。次々紹介されたが、皆子供であった。ここは、夏季キャンプのような場所なのかもしれない。  村を一歩でも出ると、夏草に囲まれ、すぐに迷子になりそうだった。 「村から出る時は、来た道を戻りなさい」  他に道は無いようだった。  村で遊ぶ子供たちは、皆、浴衣を着ていた。色は白く、どの子も、皆、綺麗な顔立ちをしていた。どこか、皆、似ている。 「遊ぼう、優哉ちゃん」 「優哉でいいよ…」  優哉ちゃんは困る。まだ呼び捨ての方がマシの気がしていた。  「優哉、遊ぼう」  子供が走って寄ってくる。小学校の低学年か、幼稚園生くらいの子供であった。 「かくれんぼしよう」  隠れているあいだに、そっと、諒一が手を引いて家に戻してくれた。 「さあ、時間だよ。帰りなさい」  着替えると、振り返りながら、村を出た。子供ばかりの村、無邪気な子供たち。  次の日、俺は早めに待ち合わせの場所に到着していた。それでも、高岡は先に行ってしまっていた。 「あの、山の上の人々は、どこの人なのですか?」  軽トラックの運転手も、荷物を頼まれているだけで、詳しくは知らないという。 「夏の間、山の上で勉強するとか、何とかで、俺の親が遠い親戚らしいとしか、聞いていないからなあ」  軽トラックの男は、実家は農家だが、普段は営業マンなのだそうだ。朝早くにしてくれたから、九時の出社に間に合うと笑っていた。  山に登りだすと、その日は虫が多かった。タオルをマスク代わりにして進み、やっと地蔵に到着すると、いつもよりも、やや遅かった。しかし、地蔵に飴を供えると、僅かに休憩する。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加