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港のある駅に到着すると、志摩は車で待っていた。
「昼、食べていませんよね?」
田舎で志摩と会うと、不思議な気がした。昔からの友人でもないのに、故郷に居るのだ。
「ここのラーメン美味いですよ」
ラーメン屋は、昼過ぎだというのに、まだ並んでいた。
「あのさ、志摩…」
志摩は、弟の件で、何を知っているのだろうか。
「ですよね、ラーメンの後に言います」
そう言われると、話が気になって、ラーメンの味も分からなかった。
「えっと、釣りをしていたのは、ここです」
弟は、幼い頃から釣りが好きで、父親とよく船にも乗っていた。そこで、知り合ったのが、志摩だった。
「釣りの場所を教えたのは、俺でした」
事故の日は会っていなかったが、弟は、よく釣りに来ると、志摩に声を掛けていた。
「それで、事故の日、倉田さんが夜通し弟の名前を叫んでいた時、俺、ずっと横に居ました」
そういえば、一緒に叫んでくれた奴が居た。
「あの時の人は、志摩か?」
やっと思い出した。
ラーメンを食べ終わると、埠頭へと車を走らせた。
「すいませんでした。俺、釣りの場所教えたのが俺だって、ずっと言い出せなくて」
場所が悪かったわけではない。そこには、他にも釣りをしている人は沢山いたと聞く。エサや竿のアドバイスをしてくれる友人が出来たと、弟も言っていた。かなり、嬉しそうだったので、頼りにしていたのだろう。
「ありがとう。弟の友人でいてくれて」
一晩中、名前を叫んでくれた友人だったのだろう。そんな奴を、恨むなんて出来ない。
「ヤツは、頭はいいけど頼りない兄貴で、おまけに人がいいと、いつも言っていて。心配だと聞いて、どうしても、近くに居たかった」
代わりに守っていたかったと、志摩が付け足した。故郷に帰ると聞き、言い出すチャンスは今しかないと、心に決めたのだそうだ。
一晩中、弟の名前を呼んでいた兄貴に、志摩は一目惚れもしていたと告げる。
「あの、俺とも友人でいてください。それで、もっと、恋人みたいに頼ってください。俺、倉田さんが好きです」
キスされるは、後輩に告られるわで、家に帰って寝たかった。志摩の気持ちは、ありがたいが、多分、答えはノーだ。
「あのな、志摩…」
「すぐに返事をするのは、ノーですね。ダメです、じっくり考えてください」
志摩が慌てて、車を出した。
「家まで送ります」
告白をなしにすると、志摩はいい友人であった。
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