第1章

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 家に戻ると、ふと諒一のキスを思い出した。明日は、荷物だけ届けて、すぐに帰った方がいいだろう。期待させてはいけない。  次の日、早々と山に登ったが、やはり高岡が先に来ていた。 「荷物置きます」  そのまま帰ろうとすると、諒一は風呂まで手を引いてきた。風呂は、初めて温かかった。 「入ってゆけ」  冷たい水浴びもいいが、湯船に浸かるのもいい。  風呂から出ると、浴衣があり、服は庭で干されていた。子供たちが庭で待っていて、はないちもんめがいいと言いだした。  子供に混じり、はないちもんめをする。『この子が欲しい、この子じゃわからん 相談しよう そうしよう』相談が終わると、俺が指名されていた。  俺は負けて、チーム?を移動する。諒一は、途中泣き出す子供や、転ぶ子供の面倒を丁寧に行い、まるで保父さんのようであった。 「来てくれて、嬉しい」  帰り際に、諒一が初めて笑った。これはバイトで、金が欲しいからだ。そう言いたいが、笑顔が、俺も嬉しかった。 「また来ます」  どうしてなのか、心臓がドキドキしていた。顔も多分赤い。諒一の目を見ることができずに、山を下りた。  山を下りると、志摩の車が止まっていた。志摩が、車の外に出て、山を眺めていた。 「志摩?」 「ここでバイトしていると、お母さんから聞きました」  よく場所が分かったと思う。しかし、暑い山登りの後の、涼しい車は生き返るようだった。 「俺、釣り客相手ですので、朝と夕方だけ忙しいのですよ、だから、明日も迎えにきます」  山登りは時間が不規則になる。 「何時に帰ると言えないからな、電話するよ」  待たれていると思うと、気が焦るので苦手であった。  志摩の母親が、昼食を用意しているというので、志摩の実家に行くと、確かに民宿であった。志摩の部屋は離れで、民宿とは離れていた。 「受験の時に、親が、勉強に集中できるようにと離れを作ってくれて」  でも、別の意味で集中できたと言う。しかも、彼女を連れ込む事が容易だった。  志摩の親が作ってくれた、冷やし中華は大盛りで、しかも、おいしかった。 「おいしいな」 「でしょう、俺の家、料理はおいしいですよ」  だから来てくださいと、志摩が言う。ぽつりぽつりと、お互いにバイトの話をしていた。俺も、謎の山の上の集落の話をする。別に口止めされているわけではないが、話していてもあまりに妙ではあった。 「高岡ですか…」
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