第1章

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 あちこち服が裂けていた、木に引っ掛かってしまったのだろう。 「すぐに治るよ」  子供が、俺の怪我にそっと手を乗せて撫ぜてくれた。それだけで、傷の痛みが消えてゆく気がする。 「痛いのは、遠くのお山に行きました」  子供が笑って、広場に走って行った。 「優哉、風呂できた」  俺の怪我よりも、諒一の怪我の方が気になる。俺は、諒一の腕を掴んで、まだ付いていた枝を取り除いた。 「君は、自分の怪我よりも、他人の痛みなのだな」  そんなきれいごとではなく、重傷の方が優先して治療だ。 「とにかく、泥、落とそう」  泥まみれでは、怪我の位置も分からない。 「チカ、リカ、頼む」  鈴の音とともに、双子の少女が現れた。中学生くらいの少女は、全く同じ顔をして、同時にクスクスと笑っていた。 「兄様、泥だらけ」 「新しい、遊びですか?」  声も鈴の音のようだった。兄様と呼んでいるので、諒一の妹なのかもしれない。 「うるさい、服を頼む」 「はい」  チカもリカも、おかっぱ頭で、さらさらの黒髪だった。顔は小さいが、髪と同じ黒い瞳は大きかった。 「アヤ様は、もう、高岡と契りましたよ。兄様はいかがされるの?」  チカとリカが、ちらちらとこっちを見て笑っていた。 「うるさい…いいか、アヤは心は結べない」  諒一に睨まれて、双子は笑ったまま逃げて行った。 「俺の妹も、双子ですよ」  どこか、双子は似ている。二人の世界が深いのだ。 「うるさくて、叶わん」  両脇に置いてしまったスピーカーのようになるのだ、俺もいつもそうなる。  諒一は、俺を先に風呂に入れようとしたが、風呂場は広かった。 「一緒でいいでしょう」  濡れた服を脱ぎ、靴下を脱ぐと、かなりさっぱりした。湯をかけると、背中に切り傷があるようだった。とても染みる。 「…怪我させてしまったな」  諒一は、無駄な肉は一切ない、アスリートのような体をしていた。比較すると、俺はかなり貧弱に見える。色も、諒一は、小麦色でどこか肌も艶やかだった。 「諒一さんのほうが、怪我が酷い」  傷を確認しようとすると、諒一の怪我は無かった。そんな馬鹿なと、あちこち探したが、どこにも怪我はない。 「気にするな…怪我は舐めれば治る」  そんな獣のようなと、笑って済まそうとしたが、俺の背が舐められていた。  檜の浴槽から、湯気が出ている。その縁を掴む手に力がこもる。背にヒンヤリと、諒一の舌が這っていた。
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