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あちこち服が裂けていた、木に引っ掛かってしまったのだろう。
「すぐに治るよ」
子供が、俺の怪我にそっと手を乗せて撫ぜてくれた。それだけで、傷の痛みが消えてゆく気がする。
「痛いのは、遠くのお山に行きました」
子供が笑って、広場に走って行った。
「優哉、風呂できた」
俺の怪我よりも、諒一の怪我の方が気になる。俺は、諒一の腕を掴んで、まだ付いていた枝を取り除いた。
「君は、自分の怪我よりも、他人の痛みなのだな」
そんなきれいごとではなく、重傷の方が優先して治療だ。
「とにかく、泥、落とそう」
泥まみれでは、怪我の位置も分からない。
「チカ、リカ、頼む」
鈴の音とともに、双子の少女が現れた。中学生くらいの少女は、全く同じ顔をして、同時にクスクスと笑っていた。
「兄様、泥だらけ」
「新しい、遊びですか?」
声も鈴の音のようだった。兄様と呼んでいるので、諒一の妹なのかもしれない。
「うるさい、服を頼む」
「はい」
チカもリカも、おかっぱ頭で、さらさらの黒髪だった。顔は小さいが、髪と同じ黒い瞳は大きかった。
「アヤ様は、もう、高岡と契りましたよ。兄様はいかがされるの?」
チカとリカが、ちらちらとこっちを見て笑っていた。
「うるさい…いいか、アヤは心は結べない」
諒一に睨まれて、双子は笑ったまま逃げて行った。
「俺の妹も、双子ですよ」
どこか、双子は似ている。二人の世界が深いのだ。
「うるさくて、叶わん」
両脇に置いてしまったスピーカーのようになるのだ、俺もいつもそうなる。
諒一は、俺を先に風呂に入れようとしたが、風呂場は広かった。
「一緒でいいでしょう」
濡れた服を脱ぎ、靴下を脱ぐと、かなりさっぱりした。湯をかけると、背中に切り傷があるようだった。とても染みる。
「…怪我させてしまったな」
諒一は、無駄な肉は一切ない、アスリートのような体をしていた。比較すると、俺はかなり貧弱に見える。色も、諒一は、小麦色でどこか肌も艶やかだった。
「諒一さんのほうが、怪我が酷い」
傷を確認しようとすると、諒一の怪我は無かった。そんな馬鹿なと、あちこち探したが、どこにも怪我はない。
「気にするな…怪我は舐めれば治る」
そんな獣のようなと、笑って済まそうとしたが、俺の背が舐められていた。
檜の浴槽から、湯気が出ている。その縁を掴む手に力がこもる。背にヒンヤリと、諒一の舌が這っていた。
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