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「腕にも傷が…」
腕を引っ張られて、伸ばされ、舐められていた。ヒンヤリとした舌が、気持ちよかった。しかし、舐められると、傷が消えていった。打撲も消えてゆくようだった。そんな馬鹿なことがあるものかと、傷口を探したが、どこにも無くなっていた。
「足にも…怪我だ」
立たされて、足を諒一が舐めていた。どこか恥ずかしい構図で、風呂のせいではなく、のぼせて貧血になってしまいそうだった。
「向きを変えてごらん」
座っている諒一の顔の前に、尻がきてしまう。でも、やんわりと、向きを変えられていた。尻など怪我はしていないが、舐められると、気持ちよかった。しかし、舌はさらに奥を舐めていた。
「諒一さん、止めてください」
足に力が入らない。前に風呂の浴槽があり、掴まる場所は、どこにもない。ふらつくと、腰をしっかりと両手で掴まれ、支えられていた。
「君が好きだ」
顔を見て言って欲しい。俺が体の向きを変えると、真っ赤になった諒一が顔を背けていた。
「目を見てください」
諒一の頬に、手をあてた。目が合うと、どこまでも深い瞳だった。心を見ようと諒一の瞳を覗き込むと、まるで、井戸を覗いているかのようで、深く深くまで落ちてゆく。
その中に、小石が落ちたかのように、波紋が見えた。そして、今、諒一の瞳の全てに俺が映っていた。
「…もう一度、言ってください」
尻に言うのではなく、正面から言って欲しかった。
「優哉が、好きだ」
恋は経過した時間ではなくて、一瞬も永遠も同じ密度でやってくる。
返す言葉を見つけようとして、自分は諒一を、どう思っていたのか、改めて考えていた。キスされても、怖かったが、嫌ではなかった。でも、一番の壁は、経験のない同性ということ。そこが、俺を止めている原因であった。
「俺は、どうしたらいいのでしょう…」
正直な心の内だった。
「俺が嫌いか?」
「いいえ」
それは、即答できる。相手がアヤでないことが、今は、ラッキーだったと思っている。心が安らぐ相手で、いつまでも一緒に居たいとさえ思えた。
とりあえず、湯船に浸かると、諒一は浴槽の外で体を洗いながら、俺を見ていた。
諒一は、なつかしい、へちまのたわしで、背中を洗っていた。
「俺を、好きになって欲しい。そうしたら、俺は、俺の全てで返す」
言葉のイメージは場所に左右されるかもしれないが、例え風呂場でも、諒一の真剣さは伝わってきた。
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