第1章

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「もう多分、好きです。でも、何も要りません…」  諒一が、真っ赤になると、下を向いた。好きということは、もう、多分、分かった。でも、先に進めないだけだ。 「君で良かった…」  それから諒一は、アヤと自分は、跡目争い中なのだと教えてくれた。地上から二人がやってくる、彼らは何も知らない。その二人が、跡目を決めるというルールなのだそうだ。  高岡は、既に跡目はアヤだと決めているだろう。俺が、跡目は諒一だと言えば、引き分けになる。  どちらかが、決められたルールを守れずに脱落すれば、勝ちが決まる。だから高岡は、俺が来られないようにしたのかもしれない。  でも、何か他に、オチが控えている気もしていた。 「他にも、何かあるのではないのですか?」  諒一は。俺の頬に、冷たい手を当てた。 「そう、相手が欲しいものを、最後にお礼として渡すというルールがある。君は、何も要らないと言ってくれた」  何も要らない、もう、好きという、心を貰っているから。  風呂から出ると、長湯だったせいか、湯あたりしてしまい、畳の上で伸びてしまった。冷たいタオルを当てられると、すごく気持ちが良かった。それから、どこからか持って来た氷で、子供たちと一緒に、かき氷を作って食べた。 「優哉はイチゴなのか?」  どうしてか、イチゴ味が好きだった。 「そうだよ、赤いのがいい。舌も真っ赤」  あっかんべーと、舌を出すと、子供も真似をして舌を出した。 「沢山食べると、お腹が冷えるからね。少しだけにしような」 「はい!」  子供は、あちこちから寄ってきて、十人程にもなった。チカとリカも、寄ってきて、二人もイチゴのかき氷を食べていた。  ひたすら諒一が、氷を削り続けて、汗を流している。 「兄様が、こんなに働くのは初めてですね」 「そうです、兄様は、いつも、家の柱のように、動かない」  チカと、リカが諒一をからかって遊んでいた。 「優哉、時間だ、気を付けてお帰り」  急いで着替えると、山を後にしたが、ずっと一緒に暮らしてゆきたい気分になっていた。  雨水はすっかり引き、帰りは快適であったが、どこで高岡が罠をしかけているとも限らなかった。用心しながら、降りてゆくと、地上が近くなるにつれ、すごい暑さになっていた。 「お疲れ様、倉田さん」  バス停に、見慣れた車が止まっていた。 「志摩!」  助かった、この暑さの中で帰るのは辛かった。
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