第1章

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 志摩、頭の良い奴なのだが、何を考えているのかは不明であった。 「そうか…まあ、連絡するよ」  志摩は、海の夕日が綺麗なので、見せてくれるとか、民宿なので泊まって欲しいとか色々言っていたが聞き流した。  志摩は、女性に凄くもてる。常に女性が傍に居て、男性との約束は常に後回し、反故されるのがお決まりなのだ。  廊下でも、女性が寄ってきて、志摩を囲みだしたので、俺はアパートに帰る事にした。  俺は、実家へ帰る荷造りをし、妹達への土産を購入する。妹達は双子で、まだ中学生だった。年が離れているとよく言われるが、実は間に弟が居たのだ。三歳年下だった弟は、高校時代に事故死していた。  釣りに行くと朝出て行ったまま、帰って来なかった弟。俺も、その後、釣りが禁止になった。  テストも終わり、レポート地獄も終わり、やっと実家に帰るという日、志摩から何本もの電話の着信があった。 「倉田さん、俺の実家の住所と電話番号。それと、これ、俺のバイト先の土産」  乗る電車を教えていたので、駅で志摩が紙袋を持って待っていた。 「全然、電話かけても通じないし」  連絡求むと、あれこれやったのだそうだ。  電車の時間が迫っていた。土産を持たされた理由を聞こうとしたが、気持ちが焦っていた。  駅では、帰宅する会社員で混みあっていた。俺は新宿まで行き、夜行バスで帰るつもりだった。 「志摩、あまり時間がないけど…」  志摩が何か言おうとしていた。 「俺、倉田さんのこと、大学の前から知っていました。倉田さんの弟と友人でした。一緒に釣りしていました…だから、話をきいてください。現場で…向こうで連絡します」  どういうことなのだ、でも、時間が無かった。俺は、走って電車に乗り込みながらも、志摩の真面目な表情と、その内容が焼き付いてしまっていた。  夜行バスに乗り込み、夜など知らぬように混みあう街を抜け、高速をバスが走る。カーテンで閉められたバスの中は静かで、安さが取り柄の席は、狭かった。隣の席も大学生のようで、アイマスクに耳栓で早々と眠っていた。  カーテンの隙間から、時々外を覗きながら、どうしても、志摩の言葉が耳に残っていた。志摩とは、大学で知り合ったと思っていた。そもそも、弟が亡くなったのは、俺が高校三年生の時、弟は高校一年だった。もう三年も経過する。  ぐるぐると、過去を思い出していたが、いつの間にか眠っていた。
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