第1章

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 再び歩き出すと、暫し下りになり、又急な登りになる。下がりきったところに、大きな岩があり、そこに小さなお地蔵様があった。野の花が添えられていたので、手を合わせると、持っていた飴玉を供えた。  又、歩き出すと、木の根に足をとられ転びそうになった。ここからは、かなりの急斜面で、これは山登りの道具も揃えた方がいいのかもしれない。  雨が降ったら、これは登れない。  山登りの趣味はないが、何度か、仲間に誘われて登ったことはある。登りは小刻みに歩いた方がいいのかもしれない。足場を確認しながら、歩いていると、かなりの時間が経過してしまった。午前中に必ず届ける。何故か、遅れる事が怖かった。  十一時半を過ぎた頃、やっと山の上が見えてきた。あと少し、やや早く歩き、十一時五十分で、やっと民家の庭に到着していた。 「間に合ったか」  縁側に一人、時計を見ている男が居た。 「休んでいろ」  カゴを片手で持つと、奥へと運んでいた。小さな子供の声が、奥で聞こえていた。  ここは一体何なのだろうか。山の上に、昔の農家のような民家が、五軒程建っていた。五軒の真ん中に小さな広場があり、一本の木と井戸が一つある。道はあるが、どこにも車が通るような道は無かった。  家の周囲は生垣で囲まれ、鶏も歩いていた。出て来た男が、ジーンズにシャツでなければ、江戸時代に来てしまったようでもあった。 「飲め」  中から男が、コップに入った水と、キュウリの漬物を持ってきた。水とわずかな塩味に、生き返るような気分になった。  よく見ると男は、俺と同じ年くらいに見えた。背が高く、黒髪に黒い瞳で、さぞや女性にもてるだろうという、整った顔をしていた。 「山登りには、慣れていないのだな。明日からは、休憩は、地蔵のある岩でとれ。俺が疲れを取ってやる」  どうやって疲れをとるのかは分からないが、頷いてはみた。 「一時間、仮眠したら戻れ」  藁で出来た枕を、出してくれた。眠れと言われてもと、思ったがつい爆睡して、一時間後に起こされた。 「帰れ」  一人では帰れないと、高岡の姿を探すと、隣の家で女性と昼食を取っていた。非常に美しい女性で同じ年頃だった。高岡と笑顔で見つめ合っていた。 「お邪魔でしたか」  俺は、一人で山を下りた。
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