第1章

8/41
前へ
/41ページ
次へ
 家に帰ると、心配して待っていた祖母に、バイトの内容を話し、心配は要らないと説明した。山の上の別荘に、荷物を運ぶだけだと説明する。  弟が帰って来なかった日から、どこか、何かが変わっていった。放任主義であったのに、いつも、今どこにいるの?と聞いてくるようになった母。祖母も同じで、週に数回は家に訪ねてくるようになっていた。  そして、そんな田舎を飛び出して、ほっとしていた俺がいた。 「やっぱり、変わっていないのか…」  やがて妹達が帰ってくると、家は一気に賑やかになった。志摩の持たせてくれた土産はかなり人気の菓子で、よく分かっているという。しかし、俺の土産は、全然分かっていないのだそうだ。 「お兄ちゃんは、全然ダメ!」  二人に、両耳からダメの攻撃をされる。 「お兄ちゃん、見た目はいいのに、服のセンスはまるっきりダメ」 「それに、何で花柄の傘が、私たちのお土産なの?傘?全然ダメ」  傘、たまたま聞いた友人が、すごく女性に人気の傘があるというので、それにしてみたのだ。 「それに、バイトが荷物運びなんて、分かってないな」  友達に紹介できないらしい。双子の妹の息は、ピッタリと合って攻撃してくる。 「はいはい」  女性には、逆らわないに限ると、風呂に入ると自室に籠った。  どんなバイトならば、紹介できるというのだ。  次の日、今度は完璧に準備をしてきた。又軽トラックが来ると、今度は巨大なリュックを渡された。それと、封筒に入ったバイト料を渡される。 「約束は守って、無事に帰ってきてください」  軽トラックの男は、今度は山に登り始めるまで見送ってくれた。男は、年は四十歳前後というあたりで、農家のような恰好をしているが、そう日に焼けてはいなかった。首にタオルを巻いているが、汗は全くかいていなかった。  彼が依頼主なのだろうか。それとも、彼も雇われているのだろうか。考えながら山に登り始めた。 第二章 夏草に埋もれて  全体の工程が分かったせいか、力の配分ができるようになっていた。高岡は、力いっぱい登ってしまうが、それは、ラクビー部という高岡だったからできる技なのだ。  俺は、俺のペースで登るしかない。一歩一歩あるいてゆくが、夏草が足に絡まるようだった。どうして、山の上に集落があるのだろうか。道は細く、荷物を運ぶのは辛い。子供の声がしていたが、子供もこの道を登ったのだろうか。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加