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家に帰ると、心配して待っていた祖母に、バイトの内容を話し、心配は要らないと説明した。山の上の別荘に、荷物を運ぶだけだと説明する。
弟が帰って来なかった日から、どこか、何かが変わっていった。放任主義であったのに、いつも、今どこにいるの?と聞いてくるようになった母。祖母も同じで、週に数回は家に訪ねてくるようになっていた。
そして、そんな田舎を飛び出して、ほっとしていた俺がいた。
「やっぱり、変わっていないのか…」
やがて妹達が帰ってくると、家は一気に賑やかになった。志摩の持たせてくれた土産はかなり人気の菓子で、よく分かっているという。しかし、俺の土産は、全然分かっていないのだそうだ。
「お兄ちゃんは、全然ダメ!」
二人に、両耳からダメの攻撃をされる。
「お兄ちゃん、見た目はいいのに、服のセンスはまるっきりダメ」
「それに、何で花柄の傘が、私たちのお土産なの?傘?全然ダメ」
傘、たまたま聞いた友人が、すごく女性に人気の傘があるというので、それにしてみたのだ。
「それに、バイトが荷物運びなんて、分かってないな」
友達に紹介できないらしい。双子の妹の息は、ピッタリと合って攻撃してくる。
「はいはい」
女性には、逆らわないに限ると、風呂に入ると自室に籠った。
どんなバイトならば、紹介できるというのだ。
次の日、今度は完璧に準備をしてきた。又軽トラックが来ると、今度は巨大なリュックを渡された。それと、封筒に入ったバイト料を渡される。
「約束は守って、無事に帰ってきてください」
軽トラックの男は、今度は山に登り始めるまで見送ってくれた。男は、年は四十歳前後というあたりで、農家のような恰好をしているが、そう日に焼けてはいなかった。首にタオルを巻いているが、汗は全くかいていなかった。
彼が依頼主なのだろうか。それとも、彼も雇われているのだろうか。考えながら山に登り始めた。
第二章 夏草に埋もれて
全体の工程が分かったせいか、力の配分ができるようになっていた。高岡は、力いっぱい登ってしまうが、それは、ラクビー部という高岡だったからできる技なのだ。
俺は、俺のペースで登るしかない。一歩一歩あるいてゆくが、夏草が足に絡まるようだった。どうして、山の上に集落があるのだろうか。道は細く、荷物を運ぶのは辛い。子供の声がしていたが、子供もこの道を登ったのだろうか。
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