第1章

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 やっと岩までたどり着くと、昨日のよりも早くここまで到着していた。しかし、かなり疲れていた。岩に腰を掛ける前に、地蔵に今度は塩飴を供えた。昨日の飴はもう無かった。何かの動物が、この山に住んでいるのかもしれない。 「疲れた…」  岩に腰を降ろすと、気持ちのいい風が吹いてきた。服の中に風を入れると、汗が引いてゆく気がする。水筒のスポーツ飲料を飲むと、汗を拭き立ち上がる。かなり、疲れが軽減していた。  再び歩きだし、傾斜のきつい山道を登りきる。 「よし到着」  荷物を昨日の庭に降ろすと、にこやかに昨日の男が立っていた。 「お疲れさん」  縁側に冷えたトマトが置いてあった。縁側に座ると、茅葺屋根の下は、ほんのり涼しかった。 「…ここは、別荘なのですか?」  生活感は無かった。 「そういうものだね…」  男は、さり気なく俺の隣に座り、うちわで扇いでくれた。風が気持いい。 「あの、服を着替えてもいいですか?」  汗が絞れそうだった。 「そうだね、そのままでは風邪をひくだろうしね…」  軽く洗濯して干しておくからと、中から浴衣を出してくれた。  せっかく浴衣を着るのなら、風呂場を借り、水浴びしてから着てみた。 「似合うよ…」  青い浴衣だった。男は、相変わらずうちわで扇っていてくれた。 「あの、高岡は、隣の家ですよね?」  荷物は二つ、家は五軒。どういう配分になっているのだろうか。 「ああ、依頼しているのは、俺のところと隣のアヤの家だからな。今季は、先に到着した方がアヤで、後が俺の配分だから」  最初に、到着順位のどちらを取るのか決め、待っているのだそうだ。中身の依頼は別の者が行い、それぞれ違っているので、ケンカにならないようにそう決めているらしい。食料の他に、生活必需品が入っている。  だから、高岡は急いで登っていたのか。先に到着できれば、アヤがもてなししてくれる。 「頑張って、先に到着してみるかい?」  俺は首を振った。高岡よりも先に登れそうにもない。それに、ここも居心地が良かった。何よりも、気を使わないで居られた。 「浴衣とトマトで充分です」  暑さでバテたのか、食欲も無かった。 「さてと、着替えて帰ります」 「もう帰るのかい…」  今日は、妹に限定品のケーキを購入しておけと、頼まれて(命令されて)いるのだ。 「はい、浴衣ありがとうございました」
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