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メールの着信音が携帯を鳴らした。
『今から行くから――絶対に――家で待っていてね』
ああ、惨劇が瞼の裏側に広がった。
彼は獰猛な人間だ。
すでに果てた身体に、なおぎらりと光る刃物を突き立てるのだ。
頭部が転がっていく。
腹がぱっくりと割かれ、贓物が辺りに散乱している。
そして、血を浴びたその顔がひどく嬉しそうな笑みを浮かべるのだ。
私は恐怖に逃げ出した。
日をまたぐまで私は逃げ切った。
インターホンが鳴り響いた。
まさか――まだメールを開いて数分と経っていない――
そうか、彼は学んだのだ。私に逃げられたのを、今日この日まで、作戦を練りに練ったに違いない。
私はベッドに潜り込んだ。たかだかワンルームの部屋、万が一侵入されればおしまいだ。
ノックが激しくなっていく。ドンと彼が扉を足蹴したのがわかった。
しばらくの静寂が部屋を覆った。
自分の体から発散された熱に息が苦しい。布団から顔だけをのぞかせ、冷たい空気をめいいっぱい吸い込んだ。
がちゃり。
彼を遮る唯一の障壁が、ついに突破された。錆びた音を立てて扉が開いていく。
私は再び布団を頭にかぶった。もっと小さく、もっと深く。
足音が響く。それは耳元まで来て、止まった。
「そんなに怯ないで。さあ――準備をしないとね」
囁くようにそう言って、また足音が遠ざかっていった。
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