十三日の金曜日

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「――ねえ、一体誰がこれを掃除するのよ」 「僕がやるよ」 「やめて、きっと二度手間になるわ」 戸棚から雑巾を取り出して水に濡らし、真っ赤な台所を白に拭き取っていく。 コンロにおかれたままの、怪しい鍋はあえて触らなかった。 「どんな料理をしたらこうなるのよ、全然分からない」 「魚を切ったんだ、頭が固くてさ、こう、ね」 彼が手振りを私に教えてくれる。ものすごい高さから包丁が振り降ろされたようだ。 「もう魚料理なんてしないって約束したでしょう?」 「――でも、リベンジがしたくて」 「魚が可哀想よ」 「少しは上達したんだ」 「食べたくない、きっと悲惨だもの」 「そんなこと言うなって」 「ねえ、ちょっと、顔を貸してよ」 キスをされるとでも思ったらしい、彼は目を閉じて、唇をほんの少し浮かせている。 私は手に持った雑巾で彼の顔についた血を拭き取った。 彼が驚いて目を見張るのが愛らしい。 「え、待って、それ汚い――」 「台所をこんなにしたバツよ」 「魚臭い――」 おあいこさまだ。 彼の唇に指先を押し当てる。彼の頬がさっきよりも真っ赤になった。 「愛してる」 私の彼への愛は、去年よりも一層深いのだ。 私は彼が座卓に運んできた料理を見て愕然とした。濁った液体の中に、ぎょろりと白目を剥いた魚の頭が浮かんでいる。 生臭さも半端ではない。絶対的に煮込む時間が足りていない。 彼は携帯で写メを撮った。 ちろん、と私の携帯に新着メールが届いた。彼からだ。 『ハッピバースデー^^』 まだ続きがある。 ずっとずっと下にスクロールした。 すると突然、ぎょろりとした目玉の魚のスープの写真が画面一杯に広がった。 彼は狂気に満ち満ちた笑みをたたえている。 刺すような冷たい震えが背中を駆け抜けていった。
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