2人が本棚に入れています
本棚に追加
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺はとっさに来た道を戻り途中で横道に入ったりして無我夢中で走りまくった。
走って、走って、走りまくった。
闇雲に走った後、俺は随分と家から離れてしまった事に気がついた。
そりゃそうだろう、あの塊が目の前に出てきたら誰だって反対側に逃げる。
おかげで進行方向とは真逆に来てしまった。
走っている最中に何人か通行人に凄い目で見られたが俺はお構いなしに走り続けた。
どうせ誰かに助けを求めたって、変な奴だと思われるのが関の山だ。
ただでさえ疲れが溜まっていた身体に鞭打って、俺は走り続けた。
しばらく距離を稼いだ後、狭い歩道が一本だけ通る小さなトンネルで俺は息を整える事にした。
この辺りはただでさえ街灯が少なくて暗い。
頼りないオレンジ色の灯りと時折通り過ぎる車のライトだけがトンネルの中を照らしていた。
肩で息をしながら俺はトンネルの中をトボトボと歩いていた。
『チチチッチッ…チチチッチッ』
最初は聞き違いかと思ったりもしたがすぐに考えを改めた。
また前方からイヤな音が聞こえてくる。
『チチチッチッ…チチチッチューッ』
車のライトによって一瞬だけ映し出されては消える黒い塊。
それは、天敵であるはずの猫の隣で小刻みに動くドブネズミの首が鳴いている音だった。
「冗談だろ…なんで…なんでまたいるんだよ…」
俺は半ばヤケクソになってガードレールを飛び越え車道に飛び出した。
危うく轢かれかけたが、俺はそのままトンネルを走り抜けた。
あの塊は明らかに俺は追いかけてきていた。
否、待ち伏せしていると言った方がいいのか。
とにかく俺はあの気味の悪い塊に目を付けられているようだった。
最悪だどうして俺なんだ。
その言葉だけが頭の中で反芻し続けていた。
最初のコメントを投稿しよう!