第1章

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ズルッ。 重たい荷物を引きずる様な音だ。 ズルッ。 もしくは誰かが足を引きずる音。 ズルッ。 もしくは大型犬くらいのナメクジが、地べたを這いずる音だ。 ズルズルズルズルズルズルッ。 次の瞬間、ヤツは突然もの凄い素早さでこちらに這ってきた。 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 アンタさ、ゴキブリって嫌いだろ? 好きな奴なんてあんまりいないよな。 アイツらがなんでこうも人間に嫌われてるか解るかい? フォルム? 色? 生命力が強いから? まあ色々あるんだろうけどさ。 俺はこう思うね。 とんでもなく動きの早いモノってのはさ、とんでもなく恐ろしいモノなんだ。 目で追えないってのは、予測がつきにくいってことだ。 だから人間は自分よりもずっと小さなあの昆虫風情に、あれほどの嫌悪感を抱くんだろうよ。 そしてこの時の俺は、まさにその何倍もの恐怖を味わっていた。 大型犬くらいのナメクジだと思ってた奴が、大型犬くらいのゴキブリだったわけだから。 そしてヤツはついに、こっちを目掛けて走ってきたんだ。
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