第1章

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当時マジメな学生生活を送っていた俺はその夜、久しぶりの家路に着いていた。 麻雀、飲み会、バイト、キャンプ、バイト、飲み会そしてまた飲み会。 そうしてその日は珍しくなにも予定もなかった。 流石に若いとは言え、目に見えて疲労が蓄積していた俺は久しぶりに家の布団が恋しくなった。 俺は実家から大学に通っていたが大抵は学校の近くに一人暮らしの悪友の家に転がり込んでいた。 その方が楽だったし、その頃の実家はエラく退屈な場所に思えたからだ。 だから大抵実家には月に一度帰るくらいのもので両親からは愛想を尽かされかけていた。 まだ俺の部屋はあるだろうか。 そんな風に考えながら慣れ親しんだ道を歩いていた。 普段は自転車で通っているのだが今日は実家に置きっ放しだった為いつもよりゆっくりした家路になっていた。 ふと人通りのない薄暗い道に差し掛かった時、道端に何か黒いモノ置いてあるのが見えた。 ソレはちょうど、パンパンに詰めた45リッターのゴミ袋みたいな大きさだった。 最初は本当にゴミかなんかだと思ってたし視界にギリギリ入ってくるくらいの認識で気にも留めなかった。 ちょうどそこを通り過ぎた辺りで俺は財布がない事に気が付いた。 いくら鞄たポケットをあさっても出てこない。 おそらく、先ほど駅で電話しながら缶コーヒーを買った時にどこかに置いて忘れてしまったのだろう。 「チッ、っどくせえなー」 そう呟いて俺は駅まで戻る事にした。 大した金額は入っていなかったが学生証や免許証を再発行するのは来た道を戻るよりずっと面倒だった。 幸いどこかのお人好しが財布を駅員に届けてくれていたようで、免許証の写真と生年月日確認ですぐに引き渡してもらえた。 二度目の帰り道俺は浮き足立っていた。 しかしよく考えてみれば落として物が返ってきただけで、何も喜ぶことではなかったのだが疲れてハイになっていたのかもしれない。 俺は下手くそなポップスを口ずさみながらスキップをして歩いていた。 そうしてまた、例の薄暗い道に通りかかった。 その時は俺はあることに気が付いてしまった。
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