第1章

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 「そうか。なら適当に縛って車に乗せとけ」  「兄ちゃんッ! こっちの方が終わったよ! ミツより早いよ! 銃あるよ!」  「嘘こいてないでちゃんとやれ。金目のものとそれ以外を分けてねーと、ジャンク屋の婆さんに足元みられる」  物騒な会話を平坦に。星純とほか二人は、虫の息で転がる男共の合間を縫っては、身ぐるみを拾い集める。下手な抵抗もないよう徹底してぼろ雑巾にしたから、こちらの蒐集はすこぶる順調だ。  「おまえら、大事なのはホウレンソウだぞ。ホウレンソウ。意味分かるやつは挙手」  「ハイ!」  「はい、そこのハチ」  「砲撃! 連合! 争奪戦!」  「違います。どこの戦争屋だ」  「はいにゃん!」  「よし、行けミツ」  「例の男が食べるとこう、モリモリっと……」  「あの船乗りに謝れ」  もちろん、報告・連絡・相談は大事というはなし。若造はわかってないご様子だ。もっとも、自分は十六歳(推定)と若造真っ只中なわけではあるが。  星純が、そうした具合に弟分と妹分の無教養に呆れていた頃。ただの刹那だった。  背後の物音に気付くのに、一瞬遅れた。その致命的な反応に、一瞬の後は大層な後悔しか待っていない。閃く鈍い、刃のあかり。  ひょろりとした男が、身体ごと、星純に惰性のようにぶつかった。とん、とのし掛かるような圧力に、脇腹にさわる冷たい感触。ああ、まあそうだわなと、諦念する星純を尻目に、痩躯の男は表情を歪めた。  目的を達した為の笑顔か、あるいは蔑むような苦笑。星純はただ、ゆるりと眼を閉じーー  「ざけんなクソが……!」  丁度良い高さにある男の頭へ、派手な頭突きをかましてみた。やった方は瞬く目眩、やられた方は、ただの頭突きに1メートル弱飛ばされる。
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