129人が本棚に入れています
本棚に追加
なにが起きたか、この男には分からないだろう。脳みその揺すぶられた結果は単純な気絶で、右手の刃物は握られたまま。中程の、腹の辺りからくの字に折れている。
「ん? どーかしたにーちゃん?」と、のんきに聞いてくるハチ。ミツも頭にハテナを浮かべて首を傾げた。
二人とも、何が起きたのか分からないでいるらしい。事の始終は全部で五秒もないだろうから、それもまた仕方ない。不意に男が立ち上がり、倒れるようにぶつかって、理不尽そのままに吹き飛ばされる、その一連が繰り広げられただけだろうから。
「なんでもねーよ。さっさと戦利品ぶち込んで帰るぞ」
星純は二人を顎で促し、両手いっぱいの荷物を運ばせた。なにも競争でも無いのに、嬉々として奇声をあげながら寄り合い所を飛び出す様は流石にどうかと思う。他に客がいなくて良かった。
「……それで。アンタはまた随分なお節介だな」
『あらやだ! それが命の恩人に対する態度かね! だめだよ、お礼くらい言わないと!』
小うるさい小言。小ささを重ね掛けで悪いのだけれど、それを言う本人もまた小さい。
というか、そもそも人じゃない。この場に動ける人型は既にない。
それは球体だった。しかも激しく輝いている。おかげさまでか、輪郭も体格も存在しない、光そのものと言ってもいい手のひら大の光球。
『私がいなければ、貴方は今頃プスッと刺されてあの世行きな哀れな末路。感謝の言葉もあっていいものかと思うけど?』
「別に。あんたがいなくともどうにかなったさ。直前でぶんどるとか」
それくらいは出来るつもり。でなければ、こんな物騒な街で生き抜けはしない。光球は、一際声を高めて反論。
最初のコメントを投稿しよう!