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人は生まれる親を選べないわけで、したらば生きる場所を選ぶ権利くらいは在ると信じたい。そういうわけで、黒煙と不純物を吐き出す以外に仕事のない鉄塔の杜ーーまともに青空も拝めない独立衛星都市を、星純は自分の故郷として、今日まで生き長らえて来た。
剥き出しの鉄筋コンクリートに、車体の後ろが派手にこすれた。額で結わえた金髪がブレる。十中八九、へこむかハゲるか傷付くかしただろうなと考えて、星純は助手席から運転手を見やった。やたらと小さなトランスポーター。
「ああもう、ほらみろ。下手に荒っぽくしてもなんの得にもならんだろうが?」
「ウルサいよ兄ちゃん! いまオイラ集中してっから黙ってて!」
なじる星純に応える子供。体格も性格も見た目通りの幼さで、拙い手足は疾走する車輪を繰ろうと右往左往。危なげを通り越して素直に危険な運転士さんは、ボサボサの癖っ毛と暴れるランドローバーを押さえ込むのに手一杯のようだ。
年の頃、10かそこら。ギリギリの手足がどうにかアクセルとレバーに届く範囲の身体で、必死に走る鉄箱を操る。一応という意味で、星純が“名付けた”ハチという少年は、着慣れ過ぎて汚れすぎたTシャツを纏って怒鳴りつけた。ちなみにハチの由来は、八月八日に拾った子供という意味でハチだ。
「ハンドル握ったまんま冗談のひとつもブッ込むのが一人前ってもんだ。やっぱりお前に車を任せるのはちょい早いな」
「んな訳ないっての! それにほら、今だってジョークのひとつくらいよゆーだし! オイラなら!」
「例えば?」
「だるまさんが転んだ!」
「前見て運転しやがれ」
目の前に、鋭角なコンクリートの塊。視界を埋め尽くす位置まで迫るも、慌てふためくハンドル捌きがそれをどうにかやり過ごす。やれやれと鼻でついた溜め息は、ビビりゲージの振り切れた顔で瞠目するハチには聞こえていない。
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