第1章

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相変わらずの廃墟群だ。星純は泥まみれのフロント越しに、次々と後退していく元雑居ビルの森を見やる。旧世紀の遺物、時代の忘れ物、不燃ゴミ。雑多な灰色の、憐憫にも似て佇む巨石たち。  これらは証人だーーかつてこの地に溢れた、幾たびもの戦争の記憶を物語る。どうしてそれが起きたのかも、どうやってそれが収まったのかも分からない、詰まるところ大した意味の無い戦争について、言葉の無いまま廃墟はただ立ち尽くす。  それは本当に、迷惑極まりないはなしで。もう何度目かも分からない世界大戦が、いよいよこの惑星表面を概ね焼け野原にし果ててしまったらしく、難民と不毛な大地に国土を食い破られた多くの国家は、その機能の大半を失ったそうな。  おかげさまで近代建築の独立衛星都市があちらこちらに乱立し、その上個々が勝手に独立宣言など掲げたものだから、残り少なかったまともな国家という形態が、この世から完全に消え失せてしまったらしい。  百万都市単位での引きこもり。総数で、幾百万。  そんな状況でまともにやっていける訳もなく、大体の独立都市は代表の執政府を置いて互助連合を組織して、お互いを助け合いながらつましく生き長らえている。食糧が無いなら隣の都市から恵んでもらい、薬が無いならこの都市から輸出したり、様々。  〈即席生命機械獣〉が現れたら、みんなでまとめてぶっ殺したりも、まあ当たり前。    「ルート特定……! にーちゃん、もうすぐだにゃん!」  「うしっ! ミツ、おれは何処で降りなきゃいけん?」    「次の曲がり角!」  「たった今通り過ぎたぞ」  「にゃに!? ちょ、ま、はっちゃんハウスだにゃん!」  「誰がワンコ丸出しじゃいちくしょー!」  車体が派手に揺すぶられる。勢いのまま、派手に横スライド。後部座席に収まる、ハニーブラウンで雑なショートカットの少女は、ディスプレイにひびのが入ったタブレットとBMIヘッドセットとを抱えてシートを転がった。  ハチよりも、ほんの少し大人びた、彼女もまた星純を名付け親に持つ子供。ミツの由来は、見ての通りそのまんま。語尾がにゃんなのはご愛嬌。
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