129人が本棚に入れています
本棚に追加
相変わらずの廃墟群だ。星純は泥まみれのフロント越しに、次々と後退していく元雑居ビルの森を見やる。旧世紀の遺物、時代の忘れ物、不燃ゴミ。雑多な灰色の、憐憫にも似て佇む巨石たち。
これらは証人だーーかつてこの地に溢れた、幾たびもの戦争の記憶を物語る。どうしてそれが起きたのかも、どうやってそれが収まったのかも分からない、詰まるところ大した意味の無い戦争について、言葉の無いまま廃墟はただ立ち尽くす。
それは本当に、迷惑極まりないはなしで。もう何度目かも分からない世界大戦が、いよいよこの惑星表面を概ね焼け野原にし果ててしまったらしく、難民と不毛な大地に国土を食い破られた多くの国家は、その機能の大半を失ったそうな。
おかげさまで近代建築の独立衛星都市があちらこちらに乱立し、その上個々が勝手に独立宣言など掲げたものだから、残り少なかったまともな国家という形態が、この世から完全に消え失せてしまったらしい。
百万都市単位での引きこもり。総数で、幾百万。
そんな状況でまともにやっていける訳もなく、大体の独立都市は代表の執政府を置いて互助連合を組織して、お互いを助け合いながらつましく生き長らえている。食糧が無いなら隣の都市から恵んでもらい、薬が無いならこの都市から輸出したり、様々。
〈即席生命機械獣〉が現れたら、みんなでまとめてぶっ殺したりも、まあ当たり前。
「ルート特定……! にーちゃん、もうすぐだにゃん!」
「うしっ! ミツ、おれは何処で降りなきゃいけん?」
「次の曲がり角!」
「たった今通り過ぎたぞ」
「にゃに!? ちょ、ま、はっちゃんハウスだにゃん!」
「誰がワンコ丸出しじゃいちくしょー!」
車体が派手に揺すぶられる。勢いのまま、派手に横スライド。後部座席に収まる、ハニーブラウンで雑なショートカットの少女は、ディスプレイにひびのが入ったタブレットとBMIヘッドセットとを抱えてシートを転がった。
ハチよりも、ほんの少し大人びた、彼女もまた星純を名付け親に持つ子供。ミツの由来は、見ての通りそのまんま。語尾がにゃんなのはご愛嬌。
最初のコメントを投稿しよう!