第1章

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 しかも実際━━白いプラスチック製ではあるが━━、猫耳まで付属しているから尚厄介だ。受信帯域を広く持たせるオプションらしいけど、ネットワーク以外の電波も受信してやいないだろうか心配になる。  まぁ、今はそれはそれとして。  「だから前見て運転しろって……!」  「違うって! 前を見たいのにミツがさァ!」  「アタシじゃないもん! はっちゃんが勝手に犬畜生なだけだにゃん!」  「だぁれが! ワンダフル! いぬにんげんヤローだこんちくしょー!」 「そう言ってなにが悪いんだにゃん!」  「言ってるんかい!」  「だあ! もういいから、ちょっと待ってろ!」  星純は助手席のドアを開け放つ。思いのほか強めで蹴り上げても、元が頑丈なおかげでヒンジは力強く鉄扉を支える。  とはいえ、遠心力がエグいけれども。横スライドは擦れたタイヤのスリップに変わり、人工物の畦道を回転していた。  と言っても、星純は関係なしにドアフレームに手をかけて。  「おいテメェら!」  栓のない口論が燃え上がる二人に言葉を向ける。一瞬の間。そこに一言。  「今日の晩飯、焼き肉はどうよ?」  悪人みたいな笑みを貼り付け、返答を待たずに星純は飛び出した。まともに回転も鎮まらない車から。その後ろに、年頃で分相応な笑顔を残していることは、確認しなくとも分かっていた。  反動で地面を転がる星純は、しかし冷静に力を抜いて衝撃を殺す。七回転ぐらいで強引に引き止めた身体は、ダサい英字の踊るパーカーに汚れをまぶしただけに留めた。傷はなし。  同時に、曲がり角の瓦礫をぶち抜いて、やたら大きな影が星純の前に躍り出た。焦げ茶色の四足。タグにしては大きな首輪。体躯は、概ね100メートル後ろを陣取ったフォーバイフォーより地味に巨大。  頭はすっかりヘルメット型の覆いが張っていて、右目だけが鈍い赤色にぎらついている。所々に人工的な銀の骨格を覗かせていて、見た目はそのまま、熊っぽい。  これでも、立派に“生き物”だ。戦争の折り、そこいらに蔓延るテキトーな生き物を適当に改造した、生物兵器の群れの生き残り。インスタントに造られた、まさしくそのまま〈即席生命機械獣〉
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