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ブブブブブブブブブブブブブブ……。
思わずびくりとして空を見上げると、真上の曇り空をヘリコプターが飛んでいくところだった。
眺める内にも、灰色の空に浮いた巨大なハエじみた黒い影は遠ざかっていく。
「マスコミ、もう来てるぞ」
人ごみの中で誰かが呟いた。
「早(はえ)えな」
また別の一人が嘆息する。
この先で大事故でも起きたのだろうか。
一瞬、あいつが事故に巻き込まれて、携帯電話ごと焼け死んでくれていないかと期待してしまう。
でも、こちらからのメールは無事に送信されたみたいだから、多分、あいつも所持品も無傷なんだろう。
平凡というより、むしろ平均より冴えない私には、名前を書くだけで相手が死んでくれるノートや手助けしてくれる死に神なんて、願っても舞い降りてこない。
もともと運にはまるで恵まれてないんだ。
だから、ろくでもない男に散々遊ばれた挙句、リベンジポルノをちらつかせられて別れられずにいる。
リベンジポルノ、か。
一体、あいつがしようとしている仕打ちのどこが復讐(リベンジ)なんだろう。
今までされてきた理不尽の延長、拡大としか思えない。
そもそも、私と彼の関係は、最初から恋愛とさえ……。
「通行止めだって」
前の方から不満を鳴らす声が飛んできた。
周囲で一斉に舌打ちや溜め息が続く。
不機嫌や失望は伝染するのだ。
「冗談じゃないよ、帰宅ラッシュって時に」
崩れ出した人の波の中でまた誰かがぼやいた。
進めなくなった方角を見やっても、こちらと同じように雨粒が斜線を引いているだけで、煙が昇っているわけでもなければ、津波が押し寄せてきているわけでもない。
ただ、もう、一般の人間には立ち入れないだけの強制力が働いているのだ。
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