第三章:送信

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ブブブブブブブブブブブブブブ……。 思わずびくりとして空を見上げると、真上の曇り空をヘリコプターが飛んでいくところだった。 眺める内にも、灰色の空に浮いた巨大なハエじみた黒い影は遠ざかっていく。 「マスコミ、もう来てるぞ」 人ごみの中で誰かが呟いた。 「早(はえ)えな」 また別の一人が嘆息する。 この先で大事故でも起きたのだろうか。 一瞬、あいつが事故に巻き込まれて、携帯電話ごと焼け死んでくれていないかと期待してしまう。 でも、こちらからのメールは無事に送信されたみたいだから、多分、あいつも所持品も無傷なんだろう。 平凡というより、むしろ平均より冴えない私には、名前を書くだけで相手が死んでくれるノートや手助けしてくれる死に神なんて、願っても舞い降りてこない。 もともと運にはまるで恵まれてないんだ。 だから、ろくでもない男に散々遊ばれた挙句、リベンジポルノをちらつかせられて別れられずにいる。 リベンジポルノ、か。 一体、あいつがしようとしている仕打ちのどこが復讐(リベンジ)なんだろう。 今までされてきた理不尽の延長、拡大としか思えない。 そもそも、私と彼の関係は、最初から恋愛とさえ……。 「通行止めだって」 前の方から不満を鳴らす声が飛んできた。 周囲で一斉に舌打ちや溜め息が続く。 不機嫌や失望は伝染するのだ。 「冗談じゃないよ、帰宅ラッシュって時に」 崩れ出した人の波の中でまた誰かがぼやいた。 進めなくなった方角を見やっても、こちらと同じように雨粒が斜線を引いているだけで、煙が昇っているわけでもなければ、津波が押し寄せてきているわけでもない。 ただ、もう、一般の人間には立ち入れないだけの強制力が働いているのだ。
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