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「お前……」
勢いが弱まった雨の中、泥だらけのまま、ずぶ濡れになった聖貴は言い掛けたまま、凍り付いている。
「河原でもあなたの部屋でもないとすると、ここしかないですよね」
私は立ち止まって携帯電話を片手に持ったまま、両腕を広げて指し示した。
元は雑居ビルで、今は電気、ガス、水道といったあらゆる機能を止められ、鉄筋とコンクリートの抜け殻になってしまった、この建物の煤けた屋上を。
「ここなら誰も来ない」
雨曝しにされ、すっかり黒灰色に変じたタイル張りの床に、言い放った声が低く転がり落ちた。
まるで録画の一時停止のように、彼は瞬きもせず固まっている。
その姿に吹き出して、私は続ける。
「覚えてるでしょ?」
返事の代わりに、濡れた黒ジャケットの肩が感電でもしたようにぎくりと震え上がる。
「最初にここに連れ込まれて襲われた時に、あなたはそう言った」
遠くからサイレンの音が響いてきた。
パトカーか、救急車か。
音だけで姿は見えないので分からない。
「その時までは、本当にセイキ先輩のこと、好きだったんだけどなあ」
乾いた笑い声が遠ざかるサイレンと囁くような雨音に紛れていく。
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