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「そんなもの、もう無駄だって」
近付いていく私から身を守るように、男はちっぽけなバタフライナイフをかざす。
その刃先から、粘ついた赤い液体が滴り落ちた。
「来るな」
呼び出したから来てやったのに、今更、何を言う。
雑巾を絞り上げるように両手で機体を捻ると、発泡スチロールさながら聖貴の携帯電話は砕け散った。
「なぜならあたしは」
幽霊みたいに蒼ざめて震えている男の襟首を掴む。
既に用済みの凶器が再びカシャリと小さく音を立てて、私たちの間に転がり落ちた。
「アンタニモウ殺サレタカラ」
夕焼けの空を背に、蒼白な顔に目を大きく見開いた形相の聖貴が高々と突き上げられる。
ミシリ、と赤黒く錆び切った手すりが軋んで潰れる音が響いた。
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