第二章:傘を置く

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階段を降りて、玄関に向かう前に床の間に行って、仏壇に頭を下げる。 お父さん、ごめんね。 でも、私もこうなりたくてなったわけじゃないの。 遺影の父は、穏やかに微笑んだ顔のまま、何も答えてくれない。 玄関を出ると、小雨から本降りに変わりつつあった。 ドアの前の傘立てには、紺色の傘と赤と白のチェックの傘がそれぞれリボンを留めた形で入っている。 紺色がもう一年も使われていない父の物で、赤と白は私のだ。 母のクリーム色の傘はないから、多分、出掛けに天気予報を見て持っていったのだろう。 そもそも、今週は今日までずっと降り続くという週間予報が出ていたと思い出す。 赤と白の傘に手を伸ばして、一瞬迷ったが、引っ込めた。 もう半ば濡れてしまっているから、今さら差さなくてもいい。 どのみち、早めに切り上げるつもりだし。
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