第二章:傘を置く

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二本の傘が並んでいる姿に笑い掛けて、むしろ身軽になった気持ちで歩き出す。 去年の今頃、やっぱりこんな風に雨が降っていた晩に、父が事故で亡くなってから、私も母も紺の傘を家族の傘立てに入れたままにしていた。 白い布を被せられた遺体を確認し、骨にして墓に収めても、どこかでまた帰って来てくれることを期待していたのだ。 「もう、戻れないのにね」 お父さんはきっとすぐに成仏して、この世をもう彷徨(さまよ)ってはいないんだ。 もともと物事にはこだわらない人だったし、残された私たちのことも信頼していたから。 一人ごちた私の肩に、雨が一粒一粒強さを増して打ち付けてくる。 時刻としてはもう夕方だが、夏至の空は、まだ明るい。
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