プロローグ 白紙の本の物語

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 まるでこの城の主であるかのように青年は話す。あの絵画の人物その人だ、と言われても、グラン・シャリオは今なら信じるだろう。グラン・シャリオよりも少し年若いだろう彼は、ずっと落ち着いていて大人の貫禄がある。 「……そうだな、生きていると意識する事もないか、ふふ」  ただ一点、抱えた少年と話している時は、グラン・シャリオと同じように見えた。否定される愛を盲目的に信じて抱えている――グラン・シャリオだけは、彼の愛を否定してはならない。自分自身の「お嫁様」への愛を否定する事に繋がりかねないからだ。 「大輝(たいき)様?」 「アリエス。ちょうどよかった」  少しずつ賑やかな方に近付いてきたと思ったところで、廊下の角から紫色の髪の女性が出てきた。背は低いがしゃんと背を伸ばし、堂々としているため、慎重異常に大きく見える。剣を腰に下げた彼女は、青年に「ちょうどいい」と言われて、手を顎に添えた。
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