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桜の花が舞い散る中。
私は今日、高校生を卒業する。
至って普通の・・・何もない3年間だった。
それなりの友人や、それなりの思い出も出来たけれど。
でも、それだけだったのだ。
皆が言うような、一生忘れる事のできない思い出や、一生の友達には出会えなかった。
だから、私は今それなりの友人の側を離れて、ここにいる。
卒業生の泣き笑いの声をBGM代わりに、ほとんど人のいない校舎内に。
私が巡る教室達は、いつも私がそれなりの友人達から逃げていた場所ばかり。
たとえば、それは第二図書館。
それから、本館からは少しばかり遠い第3保健室。
本当は立ち入り禁止の筈の本館屋上。
部室として機能しているのか謎な、部室棟の歴史研究部。
一つ一つに別れを告げる。
もう、お世話になる事のない場所。
感傷に浸るわけではないけれど、ゆっくり、ゆっくり歩いて後にする。
ペタペタと、リノウムの廊下に響く足音。
もう、卒業生達は校舎を後にしただろうか?
先程から、泣き笑いの声が聞こえなくなっていた。
場所をカラオケに移したのかもしれない。
私も、一応クラスメイトに誘われてはいた。
行く気はなかったから、あやふやな返事をしておいたから、誰も私がいない事を気に留めていないだろうと思う。
…私も。
そろそろ、学び舎を後にしよう。
屋上の扉を閉め、階段を下る。
誰にも急かされる事はないから、ゆっくりゆっくりと一段一段を下りる。
「あ…」
2階まで降りた所で、近くの教室から教員が出て来た。
見た事のない、先生。
この学校は大きいから、3年間一度も会わない先生なんてざらにいる。
きっとその内の1人なんだと思うけど。
知らない人でも先生は先生だ。
私はぺこりと頭を下げて、
「さようなら」
別れの挨拶をするとまた階段を下り始める。
「お気をつけて」
声に振り返る。
背後でふわりと笑う、先生。
そして、遠ざかる笑う顔。
階段を踏み外したのだと気付いたけど、後の祭り。
何かを叫びながら、こちらに手を伸ばす先生の顔を最後に、私の記憶は白に染まった。
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