蛍のひかり

2/2
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
桜の花が舞い散る中。 私は今日、高校生を卒業する。 至って普通の・・・何もない3年間だった。 それなりの友人や、それなりの思い出も出来たけれど。 でも、それだけだったのだ。 皆が言うような、一生忘れる事のできない思い出や、一生の友達には出会えなかった。 だから、私は今それなりの友人の側を離れて、ここにいる。 卒業生の泣き笑いの声をBGM代わりに、ほとんど人のいない校舎内に。 私が巡る教室達は、いつも私がそれなりの友人達から逃げていた場所ばかり。 たとえば、それは第二図書館。 それから、本館からは少しばかり遠い第3保健室。 本当は立ち入り禁止の筈の本館屋上。 部室として機能しているのか謎な、部室棟の歴史研究部。 一つ一つに別れを告げる。 もう、お世話になる事のない場所。 感傷に浸るわけではないけれど、ゆっくり、ゆっくり歩いて後にする。 ペタペタと、リノウムの廊下に響く足音。 もう、卒業生達は校舎を後にしただろうか? 先程から、泣き笑いの声が聞こえなくなっていた。 場所をカラオケに移したのかもしれない。 私も、一応クラスメイトに誘われてはいた。 行く気はなかったから、あやふやな返事をしておいたから、誰も私がいない事を気に留めていないだろうと思う。 …私も。 そろそろ、学び舎を後にしよう。 屋上の扉を閉め、階段を下る。 誰にも急かされる事はないから、ゆっくりゆっくりと一段一段を下りる。 「あ…」 2階まで降りた所で、近くの教室から教員が出て来た。 見た事のない、先生。 この学校は大きいから、3年間一度も会わない先生なんてざらにいる。 きっとその内の1人なんだと思うけど。 知らない人でも先生は先生だ。 私はぺこりと頭を下げて、 「さようなら」 別れの挨拶をするとまた階段を下り始める。 「お気をつけて」 声に振り返る。 背後でふわりと笑う、先生。 そして、遠ざかる笑う顔。 階段を踏み外したのだと気付いたけど、後の祭り。 何かを叫びながら、こちらに手を伸ばす先生の顔を最後に、私の記憶は白に染まった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!