輪違屋

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『あの子、薄気味悪いのよ。そりゃあ、なんでも卒なくこなすし、学校での成績も評判もいいし、習い事だって先生に褒められてばかりで、悪いところなんて何一つないわ?でもね、それだけなのよ。言われた事、やらなければいけない事。何でも完璧にこなし過ぎてしまうのよ。人間味がないと言うか…人間らしくないと言うか…そう。言い表せば、まるで…まるでロボットみたいなのよ!一度そう思ってしまうとね?あの子が笑っていても、何をしていても。そうとしか見えなくなるのよ!コンピューターが、この場面は、笑う所、泣く所、怒る所!って!あの子の皮を被った何かに命令しているの。あの子、私の産んだあの子なんかじゃないわ?きっと、どこかですり替えられたのよ!』 だって!あなただってそう思ってるでしょ? 下の子は、こんなに人間らしいのに! あの子は何か違うって! 薄気味悪いって! ねえ?そうでしょ? 絶対、そう思っている筈よ! あの子、私たちの子じゃないのよ! あのこ、わたしたちのこどもじゃない。 では、ここにいるこの私は、何? あなたが産み落とした命の一つではないの? すり替えられたって、何に? どうして? なぜそんな事をする必要があったの? なぜ? どうして? 沢山、言いたい事、あった。 でも、私はそれを良しとしなかった。 だって、沢山の疑問をぶつけて何になるというのだろう? あの人は、言ったではないか。 一度そう思ってしまうと、もうそうとしか思えないと。 私はもう、あの人にとっては、あの人の子供の皮をかぶった『何か』で、薄気味の悪いバケモノでしかないんだ。 だから私は、家を出た。 わざと家から通えないような遠くの高校を受験して、そして入学をした。 長期の休みも、部活だバイトだと言い訳を用意して高校三年間、一度も家に帰らなかった。 あの人達は何も言わなかったし、それでいいんだと私自身諦めていた。 入学式にも三者面談にも、遠方を理由に顔さえ出さなかった。 与えられるものは、言葉でも愛情でもなくお金だけだった。 大学に推薦入学が決まった時も、与えられた物は入学金とまとまったお金と、そして今住んでいるマンションの権利書だけだった。 あと2年程で私は成人する。 もう、親の保護がなくとも社会的には生きていける年齢になる。 だから、此れはきっと別離の手切れ金みたいなものなんだろう。 私は、そう理解したんだ。
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