11人が本棚に入れています
本棚に追加
『あの子、薄気味悪いのよ。そりゃあ、なんでも卒なくこなすし、学校での成績も評判もいいし、習い事だって先生に褒められてばかりで、悪いところなんて何一つないわ?でもね、それだけなのよ。言われた事、やらなければいけない事。何でも完璧にこなし過ぎてしまうのよ。人間味がないと言うか…人間らしくないと言うか…そう。言い表せば、まるで…まるでロボットみたいなのよ!一度そう思ってしまうとね?あの子が笑っていても、何をしていても。そうとしか見えなくなるのよ!コンピューターが、この場面は、笑う所、泣く所、怒る所!って!あの子の皮を被った何かに命令しているの。あの子、私の産んだあの子なんかじゃないわ?きっと、どこかですり替えられたのよ!』
だって!あなただってそう思ってるでしょ?
下の子は、こんなに人間らしいのに!
あの子は何か違うって!
薄気味悪いって!
ねえ?そうでしょ?
絶対、そう思っている筈よ!
あの子、私たちの子じゃないのよ!
あのこ、わたしたちのこどもじゃない。
では、ここにいるこの私は、何?
あなたが産み落とした命の一つではないの?
すり替えられたって、何に?
どうして?
なぜそんな事をする必要があったの?
なぜ?
どうして?
沢山、言いたい事、あった。
でも、私はそれを良しとしなかった。
だって、沢山の疑問をぶつけて何になるというのだろう?
あの人は、言ったではないか。
一度そう思ってしまうと、もうそうとしか思えないと。
私はもう、あの人にとっては、あの人の子供の皮をかぶった『何か』で、薄気味の悪いバケモノでしかないんだ。
だから私は、家を出た。
わざと家から通えないような遠くの高校を受験して、そして入学をした。
長期の休みも、部活だバイトだと言い訳を用意して高校三年間、一度も家に帰らなかった。
あの人達は何も言わなかったし、それでいいんだと私自身諦めていた。
入学式にも三者面談にも、遠方を理由に顔さえ出さなかった。
与えられるものは、言葉でも愛情でもなくお金だけだった。
大学に推薦入学が決まった時も、与えられた物は入学金とまとまったお金と、そして今住んでいるマンションの権利書だけだった。
あと2年程で私は成人する。
もう、親の保護がなくとも社会的には生きていける年齢になる。
だから、此れはきっと別離の手切れ金みたいなものなんだろう。
私は、そう理解したんだ。
最初のコメントを投稿しよう!